私が所属しているガイド団体の一つに“よびごと案内人”と言うものがあります。
”よびごと”とは何か? 電話が無かったその昔、祖谷の人たちは大声を使って要件を伝えていました。 その行為を言います。
“昨日、何よびごとしよったん?”、 “ほんなら用意できたらよびことするは”。 そんな風に使います。
と言うことで本日はよびごとの紹介をしてみます。 3つのパターンに分けて説明します。
■対岸と連絡を取るパターン
狭い渓谷が続く祖谷。 対岸の集落との連絡にも”よびごと”が使われていたそうです。
そうしなければ、山を下り、川を渡り、対岸の山を登って要件を伝えに行かないといけません。 伝えたらまた山を下り、川を渡って、自分ちまで登って上がります。 やってられません。
その点、よびごとなら簡単です。
例えば皆さんが観光客が多い落合集落展望所。 そこは対岸の”中上”と言う集落にあります。 そして対岸の落合集落との間でよく”よびごと”が行われていたそうです。 大変な距離です。
さすがに何を言っているか、聞き取るのは難しかったのでしょうか。 「屋根に蓆を置いてたら稲刈りの合図ね」などと取り決めし、”今日やるぞ!”という日によびごとをしていたそうです。
対岸からの大声に気づき、屋根の上の蓆を見て、”あ、稲刈りに呼んでる”と言う感じで意思が伝わる訳です。
祖谷では昔から共同作業が多く、その合図によびごとが利用されていたそうです。

■集落の上下で連絡をとるパターン
昔は集落の上下でも “よびごと“が用いられていたそうです。
自給自足が当たり前だったその頃、皆さん外に出て畑仕事をしていました。 なので日常的に大声をはりあげて連絡をとりあっていたようです。
よびごとは中継もされました。
「お~い、Aさんよ~。頼まれとった種芋準備できたきん、取りに来いってDさんに言うてや~」。 そんな感じです。
Aさんは一つ上のBさんによびごとし、BさんからCさん、CさんからDさんという風に伝わる訳です。
そした「わかった~!」と言う返事が、Dさん→Cさん→Bさん→Aさん→そして本人、という形で戻ってきます。
特に落合集落は上から下まで傾斜が一定(詳細はこちら)。 ほぼ等間隔で畑が点在していたため集落の上下でのよびごとが多用されていたようです。

■近所で連絡をとるパターン
家の周りが畑が囲まれている祖谷では民家が点々と存在するので、お隣さんを呼ぶにも”よびごと”が使われたそうです。 私の母に尋ねたところ、最初に出て来た事例が次のものでした。
「お~い~、ダヨンナルのお母よう~。オラんくの嫁さん逃げたきん、その前で捕まえてたも~」。
”奥さんが逃げたのであんたの家の前で捕まえてくれ”というものです。
※ダヨンナルというのは“うちの母親が育った家の屋号(詳細はこちら)”で、ダヨンナルのお母とは母親の母親、すなわち私の祖母に当たります。
風呂がなかったダヨンナルでは、そのお隣さんにお風呂も借りていたようです。 風呂が空くと、“風呂、空いたぞ~” とよびごとで知らされていたそうです。
昔の風呂は家の外にありました。 五右衛門風呂です。 当然洗い場もありません。 体は湯舟の中で洗います。
大家族だった昔。 全員が入った後の湯舟は垢だらけ。 ”それでも大変気持ちがよかった”と、うちの母が遠い目をして言います。 風呂は一週間に一度の楽しみだったようです。

以上、よびごとについてまとめてみました。 よびごとは平地にはそぐわず、渓谷や傾斜地ばかりの祖谷特有の習慣だったのかも知れません。
ちなみに「のろしは使わなかったのですか?」とよく聞かれますが、それはありません。 田植えに来てくれとか、種芋を取りに来いとか、そんな用事にのろしを使っていたらかえって手間がかかりそうですね。
それと、よびごとの動画もあります。 こちらです。 頭から4分15秒目辺りに出てきます。 興味のある人はどうぞ。


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