小学生の頃、輪唱が苦手でした。 カエルの合唱とか、静かな湖畔とか、そんなやつです。
私はどうしても他のパートに引きずられます。 なので手で耳を塞いで歌いました。 そして先生に叱られました。 「他の人の声を聴け!」 そんな神のようなことはできません。 私は気持ちで耳を塞いで歌います。
”薄氷を踏みながら” とはまさにこのこと。 何とか事なきを得て最後まで歌い終わると結構な達成感がありました。 それはみんな同じだったようで、輪唱が終わると喜びとも安堵ともつかないどよめきがいつも起こっていました。
もう少し学年が上がると、重唱と言うのでしょうか、ハモって歌うやつが入りました。 これも「他のパートを聞きながら歌え」と指導されました。 そしてそれはもはや苦行。 やはり心の手で耳に蓋をして歌いました。

一昨年何度も ”深山祖谷山を歌う人たち” の話を書きました(前編、後編、続編)。 そして昨年はコンサートの様子も書きました(本番1、本番2、本番3)。 実は私、コンサートの後、厚かましくも打上げにまで参加しています。
その席で、メンバーの皆さんが「今日の〇〇さんは攻めてたよねぇ」という話で盛り上がっていました。 「そうそう、付いて行こうかどうしようか迷った」とか、「△△辺りから付いてった」とか。
わかるようで、わからない。 「どういうことですか?」 私が割り込みます。
どうやら歌には色々な歌い方があるようで、〇〇さんが練習では見せたことがないようなアグレッシブな歌い方をしていたようです。 しかし私にはどういう感じなのかよく理解できません。
が、チャンスと思ったのか、長年抱いていた疑問をぶつけてしまいます。 「皆さんは他の人の歌を聴きながら歌ってるのですか?」

我ながら馬鹿な質問をしたものです。 それに気づいて慌てて小学時代の輪唱の話などを添えます。 愚問を搔き消そうとでもしたのでしょうか。
しかし優しい団員さん。 ちゃんと向き合って答えてくれます。 「最初はそうですよね~」 こんな私に寄り添ってさえくれます。
聞けば(当たり前ですが)人の歌を聴きながら歌うのは当然として、「それが楽しい」のだそうです。
練習の時も、「今日は□□さん調子が出てないなぁ」とか、「☆☆さんは何かいいことがあったな」とか、色んなことを思いながら歌っているそうです。
ぎょぇ~?と思いました。 それはもはや ”傾聴”。 最も高度なコミュニケーションです。 それを歌を通してやっている???
素人質問が呼び水になったのか、団員さん達はこの手の話で盛り上がり始めます。
「おっ、今日は△△さんが行ってるなぁ」、「ついていこうかなぁ」、「どうしようかなぁ」、「あっ、◇◇さんも行き出したぞ」、「よし、私も行くか」。。。
どうやらそんな感じで歌っておられるようです。
もちろん、人によって方向性が違ったり、自分がリードする側に回ってみたり、色々なパターンと言うか、駆け引きと言うか、絡み合いと言うか、そんなものがあるようです。 そう言う内面的なやりとりが楽しくて合唱をやられているのだなということがわかりました。
そして、仕掛けたり、仕掛けられたり。 乗ってみたり、抗ってみたり。 曲の合間では侃々諤々議論もすることでしょう。 こうして最高の出来栄えに仕上がった時、その達成感や感動はきっと半端なく、合唱の醍醐味として歌い手さん達の心を虜にしていくんだろうなと思いました。
そして、だからこそ、私のような素人でも夢中になって聴き入ってしまう迫力と深みに満ちた演奏になるんですね、きっと。

そんな ”未来へ繋ぐ合唱の会” の皆さんのコンサート、今年も行われます。
3月1日(日)豊中市立文化芸術センターです。
そもそもが ”世界に誇りうる名作でありながら、歴史に埋もれてしまう恐れのある作品に、光を当てて未来につなぐ” ことが活動の目的。 そのおかげで、”深山祖谷山” もYouTubeとして永遠に残ることになりました。 感謝です。
と言うことで今年も聴きに行きます。 コンサートは以下の通り3部から構成されます。
第1部 クリマトーガニ
宮古諸島に来間島という島があるそうで、クリマガーヌカスキダナ(来間の井戸のカシの木の足場)でのエピソードなど南方の島国独特の詩と音楽が楽しめるそうです。
第2部 亡命地からの手紙・道しるべ
パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュ、ベトナムの革命家ホー・チミンが作成した異なる2つの詩をベースにしているそうです。故郷を追われた者の深い郷愁、困難の中で未来への希望と失わない強い意志が歌われています。
第3部 三重五章
”深山祖谷山”同様、柴田南雄先生作のシアターピースです。伊勢と言えばお伊勢さん。本居宣長や井原西鶴など、伊勢ゆかりの著名人の作品がモチーフで、お伊勢参りの賑わいなど、当時の伊勢国の民の暮らしが生き生きと描写されているようです。
※シアターピース:朗読、民謡、芸能などを素材として、身振りや歩行も交えながら多様かつ豊かに曲を表現する手法
以上からお分かりのように3部作すべてが地方に焦点を当てたものです。 故郷や古き良き日本への郷愁がテーマになっているように思います。 祖谷を思う私たちにはぴったりですね。
以上、未来へつなぐ合唱の会のイベント告知でした。 参加ご希望の方は、こちらからお申し込みください。 問い合わせ先が書かれていますのでそこにコンタクトすればOKと思います。 詳細はこちらにも記載されています。
ちなみに、三重五章の詳細は柴田南雄先生著の下記書籍にも記載されています。古代からの日本の楽器を紹介したり、民族芸能音楽について考察を加えたり、私のような音楽音痴でも楽しめる一冊です。
”日本の音を聴く”、柴田南雄著、岩波書店


コメント