「風太郎兄ちゃんな、山へは絶対一人で行かんといてな」。 私には消防署に勤める従姉の子がいて、よくそのように言われてました。 祖谷は山だらけ。 安易に山に登る観光客が遭難し、しょっちゅう出動がかかって困っているようです。
なので私は自重していました。 山に登りたい時は必ず Iさんと言う登山ガイドにお願いし、仲間を集めて登るようにしていました。 その際、観光客がどういうところで道を間違うかも教えてもらい、「確かにこれは知らないと遭難するなぁ」と言うことも肌感覚で知っていました。
しかし、先日、その掟を破ってしまいました。

”阿佐尻山に行って来ました(写真集)”でも書きましたが、現在私は今秋の ”東祖谷ジャーニーラン” に向けてコースを調査しています。 簡単な山があればコースに入れたいという話もあり、山についても調べています。 そして ”小桧曽山” が候補の一つになっていました。 簡単に登れて景色がよいそうです。 近いうちに同志のC子ちゃんと登る予定でした。
それが、ある日、魔が指したと言うのでしょうか。 冬だと言うのに春の陽気が続いたとある午後、ちょっとどんな場所か確認してみようと、すけべ心が頭をもたげてきました。
グーグルマップで確認すると簡単そうです。 林道京柱線も通っています。 でも、どこまで車で行けて、どこから徒歩なのか、よく分かりません。 とりあえずちょっと行って確認してみよう。 そういうつもりでした。
場所は京柱峠という高知県と徳島県の県境付近。 峠から前述の林道が通っていて、その途中から登ります。

車で京柱峠に到着しました。13:30頃です。
あれ、こんな看板が。 ここには何度も来ていますが、気が付いていませんでした。 前述の林道方面です。 とりあえず車で行ってみます。

すぐにこんな所に出くわしました。 登山口です。 グーグルマップではもっと先から登るように見えました。 更に車を走らせてみましたがすぐに道が悪くなりました。 引き返します。 どうもここから登るようです。 グーグルマップで見ると45分で頂上に着くと出ます。 「45分かぁ、ちょっと行ってみるか」。 そう思った私は、京柱峠の駐車場に車を置いて登ってみることにしました。

すぐにこんな眺望のよい所に出くわします。 天狗塚(1812m)です。 右側の尖った山です。 天狗の鼻のように天に突き出しています。
左側の平らな山は天狗峠(1780m)です。 ”天上の林道をドライブしてみました”や”阿佐尻山に行って来ました(写真集)”でも書いた通り、この天狗峠は祖谷の色んな場所から見ることができます。 しかし天狗塚はなかなか拝むことが出来ません。 天狗峠が視界を遮るのです。
でもここは違います。 天狗塚と天狗峠を並べてみることができます! こんな場所は初めてです。 素晴らしい! 来てよかった!

それだけではありません。 ここからは、矢筈山、烏帽子山、寒峰と言った祖谷では名が知れた名山が一望できます。 落合、麦生土、樫尾と言った集落も見えます。 素晴らしい! ここでこんなに景色がいいなら頂上はさぞや凄いことでしょう!


こんなきれいな木の幹にも出合います。 自然が作るパッチワークみたいです。

ところどころ雪が残っています。 出発地の外気温は17℃。 ここ数日、2月とは思えない高温が続いています。 しかしさすがにここは山。 ところどころ雪が残っています。 でも大丈夫。 全然寒くはありません。

こんな開けたところもあります。 気持ちがいい。 この調子なら頂上まで行けそう。

こんな石積みも。 目印になる。 道に迷うこともなさそう。

こんなマークも。覚えておこう。
さきほどの天狗塚も木々の隙間からずっと見えています。 万が一のことがあっても、あれを目印に下りれば大丈夫。
従姉の子に警告されている私は帰りを意識して慎重に登ります。

こんな場所にも出合います。 きれいです。 が、かれこれ40分。 グーグルマップをみるとまだ半分。 どうも時間的に頂上までは行けそうにありません。
でもまだ道は続く。 登山道に雪はありません。 電波も通じてる。 もう少し行ってみよう。


ちなみにですが、ここまでの道のりは結構険しいものでした。 緩やかな歩きやすいところと、60度はあろうかと言うきつい傾斜が交互に繰り返されます。 しかもきつい傾斜が長い。 結構ハードな山です。

そして試みは終焉を迎えます。 この雪を突っ切って進まなければならなくなります。 雪道を歩く装備はしておりません(そもそも持ってもいない)。 時刻も15:00。 そろそろ潮時です。 お利口さんの私はここでUターンすることにします。
そして結論。 この山はジャーニーランには向いていない。 それと、45分で登るのは無理。 休憩も入れて、片道2時間はみておいた方がよさそうです。
頂上まではいけなかったものの、目的を達成した私はご満悦で帰路につきます。
途中、シャクナゲなども見つけ、また花が咲くころに来てみたいなぁなどと呑気なことも考えます。

が、様子がおかしくなります。 ものすごい急傾斜の杉やぶに入ってしまいます。
「これは明らかにおかしい」。 そう思った私は引き返します。 「迷ったら勇気をもって自信がある場所まで引き返せ」。 登山ガイドの Iさんからはそう教わっています。
私は急傾斜の上まで戻ります。 そしてあっちに行ったりこっちに行ったり。 登山道を探します。 「間違いない。これだ」。 慎重に選んでそう思った道を降り始めます。
が、すぐにまた杉やぶです。 杉の枝もたくさん落ちています。 ここは放置林。 傾斜は60度。 完全に登山道から外れたようです。
グーグルマップを見ます。 つながっています。 そして位置も大丈夫。 それほど反れてはいない。 西に行けばいいはず。
私は杉やぶを西方向に斜めに下ります。 が、しかし、登山道からはどんどん離れていきます。
えぇ? なんで? 訳がわからなくなります。
しかしこんな杉やぶは子供の頃から歩き慣れてる私。 え~い、面倒だ。 このまま行ってしまえ。 どこかで林道に当たるはず。 私はグーグルマップを無視して下山に専念し始めます。
まだ杉やぶ。 16時にもなっていないのに夕暮れのようです。 だんだん心細くなってきます。 遭難する人ってこんな感じになるんだろうなぁ、とか、これで助けを呼ぶ羽目になったらかっこ悪いなぁ、とか、それが従姉の子だったら会わす顔がないなぁ、とか、ネガティブなことばかりが脳裏をよぎります。
登りではあんなに撮った写真も下りはほぼゼロ。 というか、むしろ、スマホが邪魔です。
地面が枯れ枝で埋まった急傾斜の杉やぶでは、どこかに掴まったり、体を支えたりしないと下りられません。 手に持ったスマホは大変邪魔で、かと言ってポケットに入れたらズボンが突っ張って歩けません。 グーグルマップも見なくなった今となっては単なる無用の長物です。
そうこうしているうちに、下の方に人工物らしきものが見え隠れし始めます。 あれは? もしかして? 道? 私の心に希望の光が灯り始めます。
更に下り進むうちに確信に変わります。 先ほどの林道です。 あぁ、良かった。 安堵します。
そして最後は林道にジャンプ。 山を削って作られた林道は山側が高さ2mほどの土壁になっています。 私は木の枝につかまって、子供の頃のようにジャンプを試みます。 鉄棒からスイングして飛び降りるあの要領です。
が、この年でジャンプはいけません。 突如、腰が引けるも時すでに遅し。 中途半端に手だけ離せないまま、振られた体がUターンして土壁にドン。 そこに残っていた大きな木の切り株で右の脇腹をシコタマ打ちます。
「やってしまった」。 そう思いました。 「あばら骨が折れたかも?」と言う意味です。 でも歩けます。 とりあえず私は帰路を急ぎます。

それにしてもここはどこだろう? 今日、最初に林道を車で走りましたが、ここまでは来ていません。
グーグルマップで確認したところ、登山口から1km以上東にいるようです。 どうやら下りるべき斜面を間違えたようです。
そして駐車場に着いたのが16:00。 結論から言うと計画通りです。 私は何もなかったように車で帰路に向かいます。 むしろ、ブログネタができたと喜んだ程です。
そしてこのブログを書き始めます。 撮った写真を見てびっくり。 きれいな景色と思って撮った場所、あるいは急傾斜の杉林、よく見るとどこが道なのか分かりません。
今更ながら愚行を恥じます。 最後のあばら骨も山からの警告だったのかも知れません。 結局は単なる打ち身で済みましたが、次回は許さないからね、と言われているようです。
皆さんも、決して一人では山に登らないように。

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