「時は元禄15年」で始まる赤穂浪士討ち入りのお話。 元禄とは1688年から17年間続き、町人文化が台頭した頃だそうです(これを元禄文化と言う)。
井原西鶴の ”日本永大蔵”、松尾芭蕉の ”奥の細道”、近松門左衛門の ”曽根崎心中” と言えばご存じの方も多いかと思います。 実はこれらは全て元禄時代に世に出たものです。
そして第5代将軍、生類憐みの令で有名なあの犬公方徳川綱吉もこの時代の人でした。
大変話題が豊富な時代ですね。

そんななじみの深い元禄時代。 赤穂浪士討ち入りの3年前に建ったとされる古民家が祖谷に存在します。
釣井集落に残る国の重要文化財 木村家住宅 です(詳細はこちら)。
その棟札には元禄12年(1699年)の記載があるそうで、今から326年前に建てられた祖谷で最も古い住宅になります。

この木村家住宅、以前は古民家喫茶などで人気の観光スポットの一つでしたが、家の修繕が必要となって長くお休みされていました。
何と言っても国の重要文化財。 修繕を主導するのはお国です。 お役所仕事にて(失礼)、いつになったら終わるやら、なかなか先が見通せませんでした。
それが先々月、長い長い作業が終了。 そして息子さんが戻り、宿泊施設としてオープンすることになりました。 その名も”重文木村家”。 これを受けて先日木村家を訪問し、お話を聞いてきたので、今日はその木村家の紹介をしたいと思います。

そもそも木村家ですが、元々はお隣の今井集落にあったそうです。 それを釣井集落に移し替えたのが棟札にある元禄12年(1699年)。 と言うことは使用されている木材はもっと古いと言う事になります。 どれくらい古いか? 現在調査を依頼していると19代目ご主人がおっしゃっていました。
そのご主人、齢70を超えて久しいにも関わらず、旺盛な探求心と行動力に満ち溢れておられます。 そして訪問するたびに興味深い話をたくさん聞かせてくださいます。
釣井集落の両隣は今井集落と元井集落。なぜ ”井” がつく集落が3つ並んでいるか、とか、
標高600mに位置する古い経塚に、ずっと下の川から運ばれてきた大量の石積みがある、とか、
周囲の田んぼには各々名前がついていた、とか。。。
これはすべて今回聞いた話です。 祖谷山探求をライフワークとする私にとってこの手の話は垂涎の的。 いつもレアで貴重な話が聞けて、ご迷惑とは思いつつ、ついついいつも長居をしてしまいます。
そしてそれもそのはず、この19代目さん、かつて文化財関係のお仕事もされていたとか。 そもそもご自宅が重要文化財な訳ですから我々下級農家出身者とは熱量も違います。
長年に渡って調査を行い、分析もし、考察してはまた調査。 その積み重ねが血肉となって心身に沁みついているのでしょう。 お言葉の一つ一つが、当時の生活者の思いを代弁しているようで、情感たっぷりに聞こえます。 まるでその時代にタイムスリップして聞いている感覚に襲われるので、私はこれを ”19代目さんワールド” と呼んでいます。
宿泊施設”重文木村家”は隠居屋を改装したものになりますが、食事は母屋で行うそうです。 そこに19代目さんがいらっしゃったらラッキー! 是非色々質問して19代目さんワールドをご堪能ください。 つい長居をしてしまう私の気持ちがわかると思います。
そして白毛馬的には、祖谷の隠居制度の話、中寝間の話、木造建築の耐久性の話などが特におすすめですよ。

さて本題の宿泊施設、すなわち隠居屋の方は18世紀後半の建築だそうです。 もちろんこちらも国指定重要文化財です(詳細はこちら)。
経営するのはご主人の次男さん(20代目さん)。 そしてさすがは若者(祖谷では60代以下は若者)、”一番古くて、一番新しい民宿” と言う粋なキャッチで、改修したての祖谷最古の建物をPRします。
室内に入るとそこは古民家。 夏とは思えぬ涼やかな空気が漂います。 冬は暖かく夏は涼しい茅葺屋根の家。 その空気感をまずはぞんぶんにお楽しみください。
そして次に見ていただきたいのが天井と言うか、屋根裏です。 祖谷の古民家には天井がありません。 梁と柱が剝き出しです。
特に木村家住宅の梁と柱は300年以上の歴史を持ちます。 どれだけの人をここで庇護し、その人生を眺めて来たことでしょう。 膨大な時を経てもまだ現役の梁と柱。 圧倒的な存在感がまるで何かを語りかけてくるようです。
そしてそこに葺かれた真新しい茅。 香りすら漂って来そうな淡い色合いが、黒光りした梁や柱と絶妙なコントラストを醸し出します。 写真にするとそれはまるで、屋根裏というキャンバスに描かれたモンドリアンの絵画。 構図、バランスともに計算し尽くされた芸術品のように見えます。
更にここに20代目さんが仕掛けます。 屋根裏に向けて照明を置いたようです。
ただでさえ美しい屋根裏絵画。 ここに灯りが入るとどんなことになるのでしょう? それは宿泊した人だけの特権。 是非寝転がって夜の幻想をお楽しみください。 写真撮るのもお忘れなく。

更にあります。 イチョウです。 木村家には樹齢500年を超えるイチョウの大木がありました。
が、倒木の懸念から先日1/3ほどに伐採されました(その様子はこちら)。 そしてその際に切り取られた幹の一部が風呂場への渡り廊下として使われています。

見てください、この太さ。 大変な重さでもあります。
これでも相当上部から取ったものと思われます。 いや枝かも知れません。
Anyway、19代目さんも子どもの頃よく登ったと言うこのイチョウ。 前述の梁や柱よりももっと古くからここにいて、木村家の人々と苦楽をともにして来たに違いありません。
是非、歴史の重みなど踏みしめながら、お風呂場へお渡りください。
そして最後にそのお風呂。 アロマたっぷりの桧風呂です。 窓の外には祖谷の山。 絵画が飾ってあるようです。 どうぞ五感を開放し、ゆっくりと湯船に身をお沈めください。
そして静かに目を閉じれば、これまで経験したことのないような深い安らぎや幸福感に包み込まれることでしょう。 それと共に、当日見聞きした木村家でのあれこれが思い出され、得も言われぬ高揚感となって何かが湧き上がってくるものと思います。 何と言ってもここは国指定の重要文化財。 桧の香りを嗅ぎながら至福の時をお過ごしください。

以上、重文木村家の紹介でした。 簡単すぎてわからないでしょうか? そのような方は こちら をどうぞ。 20代目さんが施設の紹介をYouTubeに上げています。
先に言え? おっしゃる通りです。 すみません。 ごめんさない。

なお、宿を開くに当たっては、喫茶の方も再開されています。 コーヒー以外にお抹茶や野草茶も楽しめます。 19代目奥様特製の祖谷のお団子付きです。 是非喫茶の方もお楽しみください。
ちなみに見学だけでもOKです。 料金は近隣施設ちいおりに合わせて500円に設定されているようです。
ただし、木村家は宿泊や喫茶を専業としている訳ではありません。 予約があった時にオープンする完全予約制です。 予約なしで行くと不在の場合もありますので、ご注意ください。 予約の電話番号は 090-7148-7401 です。
最後に参考情報です。 木村家が位置する釣井集落は祖谷の暮らしが凝縮されたようなところです。 私はここを ”祖谷のミニチュア” と呼び、見どころも紹介しています。 もしよかったら木村家宿泊の際の散策やドライブにご活用ください。 詳細はこちらです。

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